事件番号:JP2022-0010

                  裁 定

  申立人:
  (名称)株式会社NTTドコモ
  (住所)東京都千代田区永田町二丁目11番1号
  代理人:弁護士 大野 聖二
      弁理士 土生 真之
  登録者:
  (氏名)川江 広朗(Hiroaki Kawae)
  (住所)東京都チヨダク, マルノウチグラントウキョウノースタワー,172-1199

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
 ドメイン名「DOCOMO-RD-OPENHOUSE.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
 紛争に係るドメイン名は「DOCOMO-RD-OPENHOUSE.JP」(以下「本件ドメイン名」という。)
である。

3 手続の経緯
 別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人は、登録者が、申立人が専用使用権を有する登録商標「DOCOMO」と紛らわしい本
件ドメイン名「DOCOMO-RD-OPENHOUSE.JP」を登録し、日本最大の移動体通信事業者である
申立人になりすまして利益を得る意図を有していることを主張する。申立人によれば、本
件ドメイン名は、申立人が権利または正当な利益を有する商標と混同を引き起こすほどに
類似し、登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、本件
ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
 したがって、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者
 登録者は、答弁書を提出し、答弁書作成時点において、本件ドメイン名を用いてITメ
ディア情報サイト(以下「登録者ウェブサイト」という。)を運営しているところ、従前に
申立人が管理していた古いコンテンツはすでに登録者ウェブサイトから削除しており、登
録者ウェブサイトに「NTTドコモとは一切関係ございません。」と明記されているとおり、
申立人になりすます意図はなく、本件ドメイン名は不正の目的で使用しているものではな
い等の主張を行っている。

5 争点および事実認定
 a 本件ドメイン名の紛争処理に適用すべき判断基準について
 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手続規則」という。)第15条(a)
は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則について、「パネルは、提
出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法
規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」と指示する。
 JPドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」という。)第4条a項は、申立人が次の事
項の各々を証明しなければならないことを指図している。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
    と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 b 処理方針第4条a項各号に係る紛争処理パネルの判断
 処理方針第4条a項各号の要件が充足されているか否かを、以下に順次検討する。

 (1)同一または混同を引き起こすほどの類似性
 ア 申立人は、日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)の完全子会社であり(顕
著な事実)、NTTの登録商標「DOCOMO」(商標登録第5213789号、以下「本件登録商標」
という。)の専用使用権者であることが認められる(甲1及び甲2)。
 以上から、申立人は、本件登録商標について権利及び正当な利益を有していると認めら
れる。
 イ 本件ドメイン名「DOCOMO-RD-OPENHOUSE.JP」のうち「.JP」の部分は、トップレベル
ドメインであって国別コードの日本を意味するため、識別力を有しない。
 セカンドレベルドメイン「DOCOMO-RD-OPENHOUSE」は、ハイフンで結合した「DOCOMO」、
「RD」及び「OPENHOUSE」の3語からなっている。そのうち、「RD」の部分は、英語で「(企
業の)研究開発」を意味する「research and developmentの略」である「R & D」(研究社
『ルミナス英和辞典』(オンライン版、https://www.kenkyusha.co.jp/modules/08_lumino
us/index.php?content_id=1、2022年9月5日最終閲覧))から「&」の記号を除いたも
のとして一般的に使用されており、ありふれた表示である。(「RD」の「R」と「D」の間に
「&」の記号がないのは、JPドメイン名の登録ルール(汎用JPドメイン名登録等に関する
技術細則)において、ドメイン名に「&」の記号を用いることができないことから、登録ル
ールに従ったものであると認められる。)例えば、NTTは「RD.NTT」のドメイン名で「N
TTの研究開発」を紹介するウェブサイトを開設しており(2022年9月5日最終閲覧)、
国立大学法人東京農工大学も「RD.TUAT.AC.JP」のドメイン名で研究活動等を紹介する「研
究ポータル」を開設している(2022年9月5日最終閲覧)。また、「OPENHOUSE」の部分
は、一般に、住居、学校、工場などの開放・一般公開を意味する英語「open house」(研究
社『ルミナス英和辞典』(オンライン版、https://www.kenkyusha.co.jp/modules/08_lumi
nous/index.php?content_id=1、2022年9月5日最終閲覧))から単語間のスペース(空
白)を除いたものとして認識されており、情報提供等の態様ないし方法を示す記述的な用
語である。(「OPENHOUSE」の「OPEN」と「HOUSE」の間にスペースないのは、JPドメイン名
の登録ルールにおいて、ドメイン名にスペースを挿入することができないことから、登録
ルールに従ったものであると認められる。)例えば、国立研究開発法人情報通信研究機構は
「ニューノーマル社会を切り拓く最先端のICT―Beyond 5Gの実現を目指して―」と題し
て研究成果を一般公開・議論する「OPEN HOUSE 2021」を開催しており(https://www2.ni
ct.go.jp/publicity/openhouse/2021/、2022年9月5日最終閲覧)、株式会社ソニーコ
ンピュータサイエンス研究所も「Research for the Future of Humanity and Our Plane
t」と題して研究内容を一般公開する「Open House 2022」を開催している(https://www.
sonycsl.co.jp/OpenHouse2022/、2022年9月5日最終閲覧)。加えて、「RD」及び/又
は「OPENHOUSE」の部分が、特定の企業名と共にハイフン等で結合されてドメイン名として
用いられる場合には、当該企業の研究開発及び/又は一般公開を意味する表示と認識され
るのが一般的であり、かかる使用形態における「RD」と「OPENHOUSE」の各部分は独自の識
別力を有しないと言うべきである。
 この点、申立人の名称の英語表記「NTT DOCOMO, INC.」(甲4)のうち「NTT」は、NT
Tグループ企業であることを示すものであるから、同英語表記のうち申立人を他のNTT
グループ企業から識別する主要部分は「DOCOMO」であると認められる。本件ドメイン名に
おいては、「RD-OPENHOUSE」の部分は、申立人の名称の英語表記を構成する主要部分である
「DOCOMO」とハイフンで結合されていることから、「RD-OPENHOUSE」の部分には独自の識別
力は認められない。登録者も、「RD-OPENHOUSE」は「ありふれた文字列」であると述べてい
る。他方、本件ドメイン名の「DOCOMO」の部分は、造語であると認められ、語頭部に位置
していることからも、特に注意を引く自他識別機能を果たす特徴を有していると認められ
るところ、当該部分は申立人が専用使用権を有する本件登録商標と同一である。
 ウ 以上より、本件ドメイン名は、申立人が権利及び正当な利益を有する本件登録商標
と混同を引き起こすほど類似しているものと認められる。

 (2)権利または正当な利益
 ア 申立人は、申立人は本件ドメイン名の従前の登録者であり、本件ドメイン名を用い
て「DOCOMO Open House 2020」という通信技術に関する展示会イベントを紹介するウェブ
サイト(以下「申立人ウェブサイト」という。)を開設した後、本件ドメイン名の更新を行
わずに廃止したところ、登録者が本件ドメイン名を再登録したものであるが、登録者に対
して本件ドメイン名の登録を承諾した事実はないと主張する。また、申立人は、本件ドメ
イン名は登録者の氏名に由来するものではなく、登録者が本件ドメイン名の名称で一般に
認識されていたという事実も確認できないと主張する。さらに、申立人は、登録者は申立
人になりすます目的で本件ドメイン名を使用していると主張する。
 イ まず、登録者は、本件ドメイン名の登録後、少なくとも2022年6月14日まで
の間に、2020年2月18日時点の申立人ウェブサイト(甲4)と同一のコンテンツを
登録者ウェブサイトに掲載すると共に(甲5)、「【2022年最新版】オンラインカジノ人
気ランキング徹底比較!」と題するオンラインカジノ紹介サイト(以下「本件カジノ紹介
サイト」という。)へのリンクが張られた文字列を含む「今話題の5Gでできる事とは何?
高速ネットを利用して便利にネットカジノも?」と題する記事(以下「本件カジノ記事」
という。)を掲載していたことが認められる(甲5乃至甲7)。また、かかるオンラインカ
ジノに関する情報は、申立人の事業や商品・サービスとは関係がないことが認められる(現
在事項全部証明書)。これらの事実に照らせば、申立人が登録者に対して本件ドメイン名の
登録を承諾したとは考え難い。このことは、登録者が2022年6月14日以降に自ら登
録者ウェブサイトから申立人ウェブサイトと同一のコンテンツを削除していること、及び、
登録者ウェブサイトに「NTTドコモとは一切関係ございません。」との表示を付している
ことからも裏付けられる(乙1乃至乙3)。登録者は、「使われていないドメインを購入す
ることは違法ではな」いと主張しているが、登録者からは、本件ドメイン名の登録に際し
て申立人の承諾を得たとの主張・立証はなされていない。ゆえに、登録者が申立人からか
かる承諾を得た事実は認められない。
 また、登録者の氏名と本件ドメイン名との間に共通する部分は存在せず、J-PlatPat上
でも、「DOCOMO」の文字(一部は他の文字を含む。)からなる登録商標の中に登録者が権利
者であるものは確認されなかった(2022年9月5日最終閲覧)。加えて、登録者は本件
ドメイン名を2021年11月1日に登録しているところ(甲3)、それは、NTTが本件
登録商標を登録した2009年3月13日(甲1及び甲2)及び申立人に対する本件登録
商標に係る専用使用権の設定登録の受付日である2011年7月14日(甲2、株式会社
エヌ・ティ・ティ・ドコモが申立人の従前の名称であることにつき現在事項全部証明書)
よりも後であるだけでなく、申立人が本件ドメイン名を用いて申立人ウェブサイトを開設
していた2020年2月18日(甲4)よりも後であることが認められる。登録者からは、
登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されていたとの主張・立証はなされていない。
ゆえに、登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されていた事実は認められない。
 さらに、後記「(3)不正の目的での登録または使用」において詳述するとおり、登録者
は、閲覧者をして登録者が申立人であるかのように誤信させることによりアフィリエイト
収入等の商業上の利得を得る目的・意図で本件ドメイン名を登録し使用していると合理的
に認められる。ゆえに、登録者が、本件ドメイン名に係わる紛争につき日本知的財産仲裁
センターから開始通知を受けた2022年7月11日以前に、商品又はサービスの提供を
正当な目的をもって行うために本件ドメイン名を使用していた事実、及び、登録者が閲覧
者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図を有することなく本件ドメイン
名を使用している事実は認められない。
 したがって、登録者が本件ドメイン名の登録について申立人から承諾を受けていたこと、
登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されていたこと、登録者が本件ドメイン名に
係わる紛争に関し日本知的財産仲裁センターから開始通知を受ける前に、商品又はサービ
スの提供を正当な目的をもって行うために本件ドメイン名を使用していたこと、及び、登
録者が閲覧者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図を有することなく本
件ドメイン名を使用していることは、いずれも認められない。
 ウ 以上から、登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していな
いと認められる。

 (3)不正の目的での登録または使用
 ア 申立人は、登録者は、申立人ウェブサイトに掲載されていたコンテンツを流用し、
本件ドメイン名を用いて申立人ウェブサイトと酷似する登録者ウェブサイトを開設するこ
とにより、閲覧者をして登録者が申立人であるかのように誤信させ、登録者ウェブサイト
の本件カジノ記事を通じて本件カジノ紹介サイトへと誘導することをもって、アフィリエ
イト収入その他何らかの利益を得ようとしており、不正の目的が強く推認されると主張す
る。
 イ まず、「Internet Archive」の「Wayback Machine」が保存した2020年2月18
日時点の本件ドメイン名の表示(甲4)によれば、申立人の名称が「お問い合わせ」欄に
表示されており、本件登録商標も使用されていることから、遅くとも同日時点で、申立人
が本件ドメイン名を用いて申立人ウェブサイトを開設していたことが認められる。
 また、登録者による本件ドメイン名の登録日が2021年11月1日であり(甲3)、そ
れが、申立人が申立人ウェブサイトにおいて「DOCOMO Open House 2020」という5G等の
通信技術に関する展示会イベントの紹介を行った2020年2月18日よりも後であるこ
と(甲4)に鑑みれば、登録者は、本件ドメイン名の登録当時、申立人が本件ドメイン名
の従前の登録者であった事実(争いのない事実)、及び、申立人が本件ドメイン名を用いて
申立人ウェブサイトを開設していた事実を認識していたことが推認される。
 そして、少なくとも2022年6月14日時点の登録者ウェブサイトには、2020年
2月18日時点の申立人ウェブサイトに掲載されていた「DOCOMO Open House 2020」に関
するコンテンツと同一の画像及び文字列からなるコンテンツが掲載されていたことが認め
られる(甲4及び甲5)。登録者も、「既に株式会社NTTドコモ様が管理していた当時の
コンテンツは全て削除済みであ」ると主張しており、削除日は不明であるものの、削除日
以前に申立人ウェブサイトと同一のコンテンツが登録者ウェブサイトに掲載されていたこ
とを認めている。
 さらに、2022年6月14日時点の登録者ウェブサイトのコンテンツのうち本件カジ
ノ記事は、2020年2月18日時点の申立人ウェブサイトに掲載されていないものであ
ることが認められる(甲4及び甲5)ところ、同記事のうち「ライブカジノも楽しめるネ
ットカジノ」という文字列には本件カジノ紹介サイトへのリンクが張られていることが認
められる(甲6及び甲7)。さらに、本件カジノ紹介サイトでは、複数のオンラインカジノ
が紹介されているところ、そのランキングと共に「登録はこちら→」というボタンがオン
ラインカジノ毎に設けられており、当該ボタンをクリックすることによって各オンライン
カジノのウェブサイトへ遷移する建付けとなっている(甲7)。
 以上の各事実から、登録者は、申立人が「DOCOMO Open House 2020」という5G等の通
信技術の研究開発に係る展示会を紹介するために従前使用していた本件ドメイン名を再登
録して使用することにより、大手移動体通信事業者である申立人が発信する情報に興味を
有する閲覧者(5G等の最先端の話題に関心のある者は常に一定数存在することが想定さ
れる。)をして登録者ウェブサイトの出所が申立人であると誤信させ、登録者ウェブサイト
へ誘導し、さらに登録者ウェブサイト上の本件カジノ記事のリンクを通じて本件カジノ紹
介サイトへと誘引する意図で本件ドメイン名を登録し使用していると認められる。
 加えて、JPドメイン名の登録には指定事業者経由で株式会社日本レジストリサービスに
登録料等を納付する必要があること(汎用JPドメイン名登録等に関する規則第5条第1
項)、及び、登録者ウェブサイトを作成して申立人ウェブサイトと同一のコンテンツを掲載
し、独自の記事であると推認される本件カジノ記事を作成・追加するには多少なりとも時
間と労力を要することからすれば、登録者が何らの利益も得ることができないのに本件ド
メイン名を登録し、登録者ウェブサイトを作成・運用しているとは考え難い。また、本件
カジノ記事は、黒い背景に対して、背景との色の差が少ない暗い色調の文字で書かれてい
るところ(甲5)、本件カジノ紹介サイトへのリンクが張られている部分である「ライブカ
ジノも楽しめるネットカジノ」という文字列のみ色が白色に近い明るい色調となっており、
閲覧者の目を引くようになっていること(甲6)、登録者が答弁書作成時点においても登録
者ウェブサイトから本件カジノ記事を削除していないこと(乙2)を併せ考慮すると、登
録者は、登録者ウェブサイトに誘引された閲覧者が本件カジノ記事のリンクを経由して本
件カジノ紹介サイトを訪問し、いずれかのオンラインカジノについて「登録はこちら→」
ボタンをクリックすることにより、アフィリエイト収入等の何らかの利益を得ることがで
き、当該利益を得る目的で本件ドメイン名を使用しているものと合理的に認められる。
 したがって、登録者は、アフィリエイト収入等の商業上の利得を得る目的で、閲覧者を
して登録者ウェブサイトの出所が申立人であるかのように誤認混同を生ぜしめることを意
図して、閲覧者を登録者ウェブサイト及び同ウェブサイト上の本件カジノ記事のリンクを
通じて本件カジノ紹介サイトへと誘引するために本件ドメイン名を登録し使用していると
認められる。
 ウ 登録者は、答弁書作成時点において、登録者ウェブサイトを「Documenting
Communications and Movements」という名称のITメディア情報サイトとして運営してい
ること、登録者ウェブサイトから申立人ウェブサイトと同一のコンテンツをすでに削除し
たこと、及び、登録者ウェブサイトのトップページに登録者ウェブサイトは「NTTドコ
モとは一切関係ございません。」と明記していることから、申立人になりすまし、閲覧者を
して登録者を申立人と誤信させる目的はなく、登録者ウェブサイト上の本件カジノ記事に
本件カジノ紹介サイトへのリンクが張られているのは「SEO的手段」にすぎないと主張
している。
 しかし、申立人ウェブサイトと同一のコンテンツを削除した後の登録者ウェブサイト(乙
1及び乙2)を見ると、本件カジノ紹介サイトへのリンクが張られている本件カジノ記事
を除けば、2つの記事しか掲載されておらず、いずれも本件ドメイン名に係わる紛争につ
き日本知的財産仲裁センターから登録者に対して開始通知が送付された2022年7月1
1日よりも後である2022年8月7日に掲載されたものであることが認められる(乙2)。
とすれば、それら2つの記事は、登録者が申立人ウェブサイトと同一のコンテンツを登録
者ウェブサイトから削除した結果、本件カジノ記事だけが残ることとなったことから、本
件ドメイン名に係わる紛争との関係でITメディア情報サイトの外観を作出するために掲
載した可能性が否めない。
 また、確かに、登録者ウェブサイトには、「Documenting Communications and Movements
はNTTドコモとは一切関係ございません。」との表示があることが認められる(乙3)。
しかし、登録者ウェブサイトが申立人と一切関係がないのであれば、なおさら申立人が専
用使用権を有する本件登録商標と混同を引き起こすほど類似している本件ドメイン名を用
いる合理的理由はないのであるから、当該表示は、登録者が申立人になりすまし、閲覧者
をして登録者を申立人と誤信させる目的がないことを裏付ける事実とは言えない。
 さらに、登録者のいう「SEO的手段」とは、「検索エンジン最適化」を意味する英語「S
earch Engine Optimizationの略」である(一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会
『インターネット広告基礎用語集』(2019年度版、日経クロストレンド掲載、https:/
/xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00185/00084/、2022年9月5日最終閲覧))と
解されるところ、検索エンジン最適化とは、「ロボット型の検索エンジンを実装する検索サ
イトで、ランキング上位に表示されるようページの記述やサイト設計に改善を施すこと」
を意味する(一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会『インターネット広告基礎用語
集』(2019年度版、日経クロストレンド掲載、https://xtrend.nikkei.com/atcl/cont
ents/18/00185/00084/、2022年9月5日最終閲覧))。検索エンジン最適化の手段とし
て登録者ウェブサイト上の本件カジノ記事から本件カジノ紹介サイトへ誘導しているとい
う登録者の主張は、本件ドメイン名を用いることによって登録者ウェブサイトが検索結果
の上位に表示されるようにし、ひいては登録者ウェブサイトに掲載されている本件カジノ
記事のリンクを通じて本件カジノ紹介サイトへの訪問が増えることを目的にしているとの
趣旨であると理解される。そうであれば、登録者には、大手移動体通信事業者である申立
人の知名度を本件カジノ紹介サイトへの誘引に利用する意図があると言わざるを得ない。
 エ 以上から、本件ドメイン名は登録者によって不正の目的で登録され使用されている
と認められる。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録された本件ドメイン名「DOCOMO-
RD-OPENHOUSE.JP」が、申立人が専用使用権を有する本件登録商標と混同を引き起こすほど
類似し、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録
者の本件ドメイン名が不正の目的で登録され使用されているものと判断する。
 よって、処理方針第4条i項に従って、本件ドメイン名「DOCOMO-RD-OPENHOUSE.JP」の
登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

   2022年9月5日
   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト    二瓶 ひろ子



別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2022年7月4日
  に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2022年7月4日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2022年7月4日にJPRSに登録情報を照会し、2022年7月
  4日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であること
  を確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住
  所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2022年7月7日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合して
  いることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2022年7月11日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子
  的送信により、手続開始を通知した。センターは、2022年7月11日に登録者に
  対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対
  し、手続開始日(2022年7月11日)、答弁書提出期限(2022年8月9日)
  並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者宛電子メール
  送信分については一部が送信不能であり、登録者の公開連絡窓口住所に送付した通知
  は「肩書不完全 会社名等をご記入下さい」として返送された。
(6)答弁書の提出
   センターは、2022年8月9日に答弁書を登録者から電子的送信により受領した。
  センターは、2022年8月10日に答弁書が処理方針と手続規則に照らし適合してい
  ることを確認し、2022年8月10日に申立人に対し電子的送信により送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センタ
  ーは、2022年8月17日に弁護士 二瓶 ひろ子を単独パネリストとして指名し、
  一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2022年8月17日
  に申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネ
  リスト及び裁定予定日(2022年9月6日)を通知した。パネルは、2022年8
  月17日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2022年9月5日に審理を終了し、裁定を行った。